思い出すことなど、など(第22話)

第22話:ギリシアの思い出 6

 今日は、BSAで出会った2人の留学生の思い出を。
 考古学がご専門のDさんは、当時イギリスで博士論文を執筆中でした。あるとき、私がBSAでいつもの席に座っていると、近くに日本人らしき人が座っているのに気づき、お互いそれとなく声をかけたのが、Dさんとの最初の出会いでした。

 BSAでは言葉の壁もあり、なかなか話し相手もいなかったので、日本人である同年輩のDさんとの出会いは嬉しかったですね。Dさんは、当時、BSA以外にもアテネにある他の国の研究所なども利用されていて、いろいろな情報を教えて頂きました。
 私のアパートにも、しばしば遊びに来てくれて、BSAでの食事の話しなどを今も覚えています。
 Dさんの食事の話しで特に印象に残っているのが、イギリス人は食後お皿を洗った際に、洗剤を洗い流さないで拭いてしまうという話しでした。Dさんはそれが嫌で、食事の後、お皿は全部自分で洗っていると言っていました。

 後日談となりますが、私がギリシアを引き上げる際に、イギリス経由で帰国しましたが、ロンドンに立ち寄った際に、Dさんと待ち合わせをして、いろいろと市内を案内して頂きました。一緒にパブに行ったのも懐かしい思い出です。
 また、Dさんが博士論文を書き上げ、帰国した後は、たまたまお互いに中央線沿線に住んでいたこともあり、何度か食事をして旧交をあたためました。

 他に、BSAでは、韓国からの留学生Sさんとの出会いも懐かしい思い出です。正確には、Sさんは学生ではなくP大学の先生でしたが、身分上、留学生の資格でBSAに所属しているとお聞きました。
 お互いに、アジア人と言うことで親近感もあり、拙い英語と時には、漢字の筆談も交えて(漢字恐るべしですね)、会話しました。ここでも、イギリス人の悪口が多かったですね、(笑い)

 あるとき、我が家でサバティカルでやって来ていたG大学のK先生と一緒に、会食をすることになりました。
 面白いと思ったのは、韓国には今も儒教精神が残っているのですね。
 K先生が来るのが遅れたので、私が、「先に始めていましょう」と言うと、Sさんは大変驚いていました。Sさんの感覚では、先生を置いて先に始めることなど、とても考えられなかったのでしょうね。

 Sさんは韓国に帰国後、日本の学会・研究会に参加するために、何度か来日したようですが、結局、その後会うこともなく今に至っています。

今日は、BSAで出会った2人の留学生について、ふと心に浮かんだ思い出を紹介しました。今思うと、会話はいつもとりとめのない雑談ばかりで、ほとんど勉強の話はしなかったように思います。(笑い)

次回は、先に話したサバティカルでアテネにやって来たK先生との交遊を紹介します。

*お気に入りの詩

風のごとし

路傍の裸木に木の実かれさがり
刈田のはさに鳥だまって尾を振る
やなぎの葉おちて堤さびしく
藁科川水ほそりて瀬瀬の音かすかなり
落日を眺めつつ六十年の行路を思う
あだかも吹きすぐる一陣の風のごとし
まことに風のごとし
また風のごとし

ー『中勘助詩集』より(昭和一八、一二、一五)

*今日のニケ
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