デモステネス『第十八弁論 冠について(クテシポン擁護)』(試訳)

ー Για τις αναμνήσεις Σουγαγία του ー

※ 底本は、M. R. Dilts, Demosthenis Orationes (Oxford Classical Texts), Tomus I, 2002.
「リバニオスの概説」と「別伝概説」については、旧版S. H. Butcher, Demosthenis Orationes (Oxford Classical Texts), Tomus I, 1903 によって訳出。

リバニオスの概説

一 ところで、弁論家(デモステネス)は、アテナイ人の為に城壁をもたらした。それは彼らに通常のかつ手作りの壊れにくいしっかりした城壁であった。すなわち、それはポリスへの愛国心かつ弁論に関する巧みさという城壁であった。彼自身が次のように語ったごとく。「私はアテナイを石にてもレンガにても城壁にて囲みはしなかった。むしろ、国家の威力(政治力)によって、またある都市との同盟によって、一方では陸地からの他方では海からの同盟によって。」しかし、それにも関わらず、彼は人工の城壁の為にも少なからずポリスのために貢献した。というのは、城壁が多くの箇所でアテナイ人にとって、ダメージを被った時に、それの修復が決定されたときに、その仕事のために10人の男が選ばれた。各部族から一人、そして彼らは監督世話するだけの負担を請け負った。というのも、支出は国庫からであったから。

二 さてそれで、弁論家もまた、他の人たちと同じように要求された務めだけを遂行するのではなく、そればかりではなく、非の打ち所なくなしとげ、かつお金を家から提出するに及んだ。評議会は、彼に対してその愛国心を称賛し、かつそのやる気に対して金の冠で報いた。というのは、アテネ人は慈善事業家に対する感謝を喜んで表したからである。

三 クテシポン、彼は次の動議を提出した人物であった。すなわち、デモステネスに、時はディオニシオス祭の時に、また場所はそのディオニソス劇場にて、その祭典が集めた人々、全ギリシアの観客の前でデモステネスに対して冠を授けるべしとの動議であった。そして、彼らに向かって、伝令が次のように宣告した。ポリスは、パイアニア区のデモステネスの子、デモステネスにすべての徳ゆえに、またそのポリス自身に対する善行のゆえに冠を与えると。

四 とにかく、すべての点でその名誉は驚くべきものであった。それゆえ、それに対する敵意が起こった。そして、違法提案に対する告発(グラペー・パラノモン)がもたらされた。というのは、デモステネスの政敵であるアイスキネスは、次の理由で違法提案の告発を行った。彼が言うには、デモステネスは、未だ現役の役人であり、かつ審査のための執務報告を行っていない状態である。法は、そのような執務報告義務者に対して冠を与えることを命じてはいない。さらにまた、次のように規定した法を提示した。もし、あるものに対して、アテナイ人の民会が冠を授与するならば、民会にて冠の授与が宣告されるべし、また、他方評議会ならば、評議会場にて行われるべし。他の場所では許されざるべしと。

五 彼は言う。デモステネスに対する称賛は偽りであると。というのは、我らが弁論家は正しい政治的行為を果たさなかった。むしろ、賄賂を受け取り多くの災いをポリスにもたらした張本人であると。そこで、とにかくアイスキネスは、次の順番でその告発を行った。まず第一に、執務報告義務者の法律について、第二に伝令によって布告されたその法について、第三にその国制について語った。アイスキネスは、デモステネスもまた、自分と同じ順序で述べるべきだと要求した。

六 かの弁論家(デモステネス)は、最初、国制問題から取りあげ、そして再びそこに帰り演説を締めくくった。職人芸を行使して。というのは、より強力な議論から始めてまたそれで終わらすべきであったから。中間に諸法についての問題をおいていた。すなわち、執務報告に関する法に関して、対立する見解を提示し、また伝令によって布告されることに関する規定に対しては、別の法を、あるいは法の一部を対立させた。彼が言うところでは、以上の点で、劇場において布告する者は承認されていた。もし、民会あるいは評議会がそのことを決議するならば。

別伝概説

一 アテネ人とテーベ人は、カイロネイア、すなわちボイオティアのポリスにて、ピリッポスに対して戦ったのだが敗北した。そして、支配者となったマケドニア人は、テーベに駐屯軍を置いて、そのポリスを奴隷状態で手に収めた。かくて、アテネ人は同じはめに陥ると考え、彼ら自身に関しては、僭主ピリッポスが未だやって来ないのに期待をかけながら、いつの日か城壁の壊れた部分を修復することを考えた。そして、実際、各部族から城壁修復者の選出が提案された。そこで、六番目の部族パンディオニス部族は、必要のためその弁論家(デモステネス)を選出した。かくのごとき土地に、この建造物を作るのは、国から与えられたものの他に、さらにお金が必要であった。弁論家は、私費にて支払った。そして、そのことを国家に報告しなかった。むしろ、好意からそうした。

二 この起こりは、クテシフォンが、彼は政治家の一人であったが、評議会に彼のそのことについて動議を提案することを行った。デモステネスの子デモステネスは、全生涯ポリスに好意を示し続けたゆえに、また今城壁修復者として不足していたお金を家から供給し、好意を示した。それゆえに、評議会と民会によって、彼に対して金の冠で冠を授与することが決定された。劇場にて、それは悲劇を上演したその劇場にて。〔同様に、時には大衆が新しい劇を見ることを望んで集まった。〕

三 かくて、民会に予備審議案が提出された際、アイスキネスは告発者としてクテシポンの前に立ちはだかった。彼は国政に関して、敵に属していたので。その決議が3つの法に照らして違法であると言って。まず、一つの法は、執務報告者に冠を授与することを禁じていると、エウテュナ(審査)が与えられる前には。また、彼が言うには、まったくデモステネスは、それらを欠いていたばかりか、また、テオリカ(観劇手当)を管理し、かつ城壁修理者の身であった。すなわち、彼は、その名誉を持ち、押さえるべきであった。その身が潔白であると実証されるのが白日の下になるまで。

四 彼はプニュックス、民会にて冠を授与すべしと命じた法を読んだ。劇場にて、デモステネスに冠を(伝令により)布告されるされるのを受け入れる市民らを非難して。第3の法は、彼の生涯に、その政策を審査することで光を与える。というのは、法は命じている。決して偽りの書類をメトローンに入れるべからずと。そこには、また公の書類も存在する。彼が言うには、彼(クテシポン)は、デモステネスに好意及び熱意を証明することで嘘をついていると。というのは、彼は悪意ならびにそれ以上の敵意をポリスに行使したのだから。

五 かくのごとき有効な諸法を手にし、その三つの法を、ある最後の弁論家が敵を倒すがごとく、巧妙な方法で、また、その告発者の熟練さを用いて主張した。というのも、そこで、彼は機会をとらえ、敵に打ち勝つことができたであったろうから。ところが、彼は一方では、他の2つの法、それは執務報告者のそれであり、また一つは、伝令者に対する布告のそれであるが、それを言葉の中心には置かなかった。将軍のやり方らしく、「中心で打つのは良くない」と持っても強い点において、その頂上に用いた。各々からの別のものの腐敗を強調して。

六 それは、言葉を使用することに関してコントロールすることであり、かつ過度に恥知らずに技術を見せびらかさないことであったと思われる。というのは、思うに最初ではその慣習を無視し、他の所では、その慣習を用いている。すなわち、アイスキネスが偽りで動議したところのものについての法を読んだ際に、それに関しては反論を行う弁論家が、皆の前で彼自身の政治指導を持ってくる機会を見つけることになる。その慣習に対して戦うことで、一方、かくのごとき言葉の管理者は、アイスキネスにとっては冒頭で強く、が慣習で、弁論家にとっては正しい。同じ事から、共通の使用は、調査を白日に曝さない。スタシスは動議の行為、それゆえ弁論家については、決議がそれである。

七 さらに、その動議は、ピリッポスの在命時に無視されていたが、アレクサンドロスが統治を引き継いだ際、弁論と裁判が生じた。というのも、ピリッポスが死に、テーベが無謀にも駐屯軍を追い出した際、テーベを見下したアレクサンドロスは徹底的に破壊し、次にその業績から心を別のものに向け、ギリシアから出発し、バルバロイに向かって行進した。そこで、アテナイ人たちは、時節とばかり、ギリシアに悪事をなしたところの裏切り者に裁判を下すことを信じた。そこで、裁判が組織された。


序文(1−8)

1) 

まず第一に「アテナイ人諸君」、私はすべての男神と女神の神々に次のことを祈ります。私〔デモステネス〕がポリスとあなた方すべてのために抱き続けている好意と同じ程の好意を、この裁判にあたってあなた方から私に寄せられるように。次に、それは特にあなた方ならびにあなた方の敬神と評判に関わることなのですが、どのようにあなた方が私の言葉を聞かねばならないかについて相手方〔アイスキネス〕を助言者にしないことを、神々があなた方の心に吹き込むことを。(というのは、とにかくそうであるならば、それは酷いことではありませんか)。

2) 

むしろ、諸法と誓いを、その誓いの中にはすべての法の諸規定に加えて、公平に両者の側から聞くことが書かれていたのですが、その諸法と誓いを〔助言者にすることを祈ります〕。その事は、単にいかなる点でも、前もって判断しないということ、かつ同じ好意を返すことのみならず、訴訟当事者の各人が、自分が望みかつ前もって慎重に選んだままに、その弁明の組み立て方と内容を用いることを許すということなのです。

3) 

とにかく、この私自身はこの裁判に関して、アイスキネスよりか多くの点で不利な状況であります。アテナイ人諸君、特に二つの重大な点がありますが、一つには、私が公平なものをめぐって争っているのではないことです。というのは、今や私にとってあなた方からの好意を失うことと、かの者がその訴訟を勝ち得ないことは、同じ事ではありません。むしろ私にとっては……。私は決して弁論の初めから何一つやっかいなことを言う意図はありませんが、かの者は有利な立場から私を非難しています。第2には、生まれたからにはすべての人に備わっていることなのですが、誹謗や非難を快く聞き、自分自身を褒める人には我慢ならないということがある点です。

4) 

かくして今、これらのうち前者は、喜びになることを彼に与え、また後者は、言ってみればほとんどやっかいなことが私に残りました。そして、もしたとえやっかいなことを警戒して、私自身がなした事をもしも語らないなら、告発されていることから解放され得るとは思わないし、こういうことに基づいて、私が称賛に値することを示すことができないと思います。また、もし私が行ってきたことや、政治活動に参加してきたことについて足を踏み入れたなら、しばしば、私自身について話さざるを得ないでしょう。そこで、私はできるだけ節度を持って、そのことを行うつもりです。問題そのものが必然的に引き起こすものがどんなものであれ、この者〔アイスキネス〕がこの裁判を提起したのだから、責任を負うのが当然であります。

(2021/11/04)

5) 

アテナイ人諸君、私はあなた方すべてが、私とクテシポンにとってこのような裁判は共通のものであることを認めることもありうると思います。またクテシポンに劣らず、私が熱心に対応するに値すると思います。というのは、どんなことでも奪われることは苦痛で耐えられないものですが、特に、敵によって誰かがそのことが起こったならば、とりわけそれら〔あなた方の好意と善意〕を得ることがとても大切なことであるのと同様、なににもまして、あなた方からの好意と善意が奪われることが苦痛で耐えがたいことです。

6)

また、それらについて、この裁判で関わっているので、非難されたことに対する私の弁明に皆さんがすべて同様に、正しく公正に耳を傾けることを望みかつ願います。まさに諸法が命じているように。それらは、ソロンがはじめて制定した法律ですが、彼はあなた方に親切であったし、民衆の友〔デモティコス〕でありましたが、単に法を刻むだけではなく、裁判をする者たちが〔裁判所の〕誓いをなしたことで、必然的に正当な権能を持つことになるだろうと思っていました。

7)

それは、彼があなた方を信じていなかったわけではなく、少なくとも私の見るところでは、むしろ、もし、あなた方陪審員の誰もが、神々への敬神を持たず、後からの演説者〔被告〕の弁論の正しい主張を好意を持って受け入れ、そして、自分自身を両者に対する平等な公正な聞き手となることによって、このようにして、すべてのことについて判定を下すことがないようなら、その非難攻撃と中傷を、原告が先に語ることから強い立場に立っているので、被告にとってそれら〔非難と中傷〕をやり過ごす〔克服する〕ことはできないということを分かっていたからです。

8)

 こういうわけだから、個人的な生き方、思うにすべて、と公に政治を行ってきたことについて、まさに今日申し開きをせんとするに、私は再び神々に呼びかけることを望みます。また、私はあなた方の前で、次のことを〔神々に〕祈ります。まず第一に、私が国家とあなた方すべてに抱き続けてきた好意と同じ程度〔の好意〕を、あなた方からこの裁判に私によせられることを。第二に、公の評判や各人の敬虔に寄与することになること、そのことを知ることを、〔神々が〕あなた方すべてに、この裁判において心の中に置くことを〔心に吹き込むことを〕。

(2021/12/16)

アイスキネスの告発の無関係な議論と違法性について(9-16)

9)

 それでは、もし、アイスキネスが起訴した事柄についてのみ告発を行ったならば、この私も〔クテシポンが告発された〕評議会の予備審議決議自体について直ぐに弁明するでありましょう。しかし、彼は他の事を長々と話し、とても沢山の言葉を費やし、ほとんどは私に対して偽りの証言をおこなったので、アテナイ人諸君、私にはそれらのことについて、二、三最初に語ることが避けられないことであり、また正しきことだと思います。それは、あなた方の誰一人、無関係な弁論に導かれて、告発に関する〔私の〕正しい主張を不親切に聞くことのないためであります。

10)

とにかく、個人的なことについて、彼が私についてどんなにか罵りでもって非難中傷したか、私が簡明に正しいことを述べるのかをご覧下さい。また、もし私が、彼アイスキネスが非難していたようなそのような者であるとわかったなら、(というのは、私はあなた方の前以外の他の場所では暮らしたことがなかったのですから)私の声を我慢することはないし、また、もし私がすべての国事に非常に優れて政治活動を行ったにしてさえも〔がまんすることはないし〕、むしろ、立ち上がって有罪の判決を下しなさい。しかし、もし私がアイスキネスよりもはるかに優れていて、かつ良き生まれであり、私が何一つ気に触ることを言わないのならば、私と私の家族が中流の者より劣っていないことを理解して知っているなら、彼に対しては、他のことに関しても、あなた方は信用してはなりません(というのは、同様に彼がすべてのことを作り上げたことは明らかだから)。私に対しては、以前の多くの裁判の時に、今まで示してくれたその好意を、今私に示してください。

11)

 あなたは性格は悪いのだけれども、アイスキネスよ、私が、行った業績や政治生活についての演説を棚に上げて、あなたからの誹謗中傷に対して向きを変えると考えたのは、君はなんと単純なのでしょう。私はまったくそのようなことを行うつもりはありません(それほど狂ってはいません)。むしろ、私が行った政治活動に関して、あなたが嘘偽りを行い、かつ中傷したところのことについて吟味するつもりです。そして、てんでに自由に行ったその〔祭の行列の時のような〕罵詈雑言については、後ほど、ここにいる陪審員が望むならば言及するでしょう。

(2022/01/01)

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